ホットチョコレート


 くつくつと火にかけられた牛乳が音を奏でている。様子を見ながら買ってきたチョコレートを包丁で刻んでいく。

 自分用に、ビターとミルクを1枚ずつ。ビターを多めに刻んで、残った分は冷蔵庫に保管する。

 刻み終わったものをゆっくりと温められた牛乳へと入れて溶かせば、次第に甘い匂いがその場に漂い始めた。

「いい匂いすんなァ、と思えば」

 振り返ればいつの間にか喜多川さんがそこにいた。

「おかえりなさい」

「ただいまー。俺の分は?」

 マフラーを外しながら聞いてくる彼に黙ってソファの前のテーブルを指さす。

 プレゼント用に包装されたチョコレート。

「あれです」

「それは?」

「俺のです」

 マグに出来上がったホットチョコレートを注ぎ、シナモンパウダーを振りかける。余ったものは翌日以降も消費するつもりだ。

 冷ますために少しずらして蓋を閉じようとしたら、隣から手が伸びてきて自分のマグを取り上げられる。

 あ、と言う前に一口飲まれた。

「ちょっと」

「俺もこれがいいわ」

「……あのチョコはどうするつもりですか」

「勿論貰うけど?」

 欲張りめ、と小さくボヤけばただ喜多川さんは笑みを深めるだけだった。

「口に合うかは知りませんよ」

「おー、着替えてくる」

 珍しく出勤した喜多川さんはそのまま自室へと戻っていく。秘書に無理やり連行されてったのが今朝の話だ。その時も俺がこの家にいることに一悶着が起きていたが。

 彼の分も作る為に、止めていた火を弱火に戻して再び温め始める。

 取り出すのは喜多川さんのマグカップ。温め終わったホットチョコレートを注ぐ前に、残っていたラム酒をほんの少し入れる。

 多分シナモンよりこっちの方がいいんじゃないか、と思ってだけど。

 出来上がったホットチョコレートを2つ持ってソファへと向かう。テーブルの上にはデパートで買ったチョコレートと、読みかけの新聞。

 スマートフォンで新聞の記事の読めない部分を写真で撮って翻訳をする。性能は良いとは言えないけれども、ひとまずは読みやすい。画像からも文を読み取ってくれるだけでも御の字だ。

「よっこらせ」

 ソファに座った彼がホットチョコレートを一口飲む。

「ラム酒か」

「はい」

 彼の横顔を一瞥する。外では掛けているサングラスは部屋では掛けていないことが多いから、目が良く見える。

「ありがとな」

「……どういたしまして」

 思わず目から逸らしてしまった。


「ところで何調べてたんだ?」

「行方不明事件とかですね」