カチリとライターの火をつけていつもの煙草をふかす。
自宅のベランダから見える外の世界はもうすっかり日が沈んで暗くなっていた。
ふう、と息を吐けば真っ白な毒の煙が空に昇って掻き消えた。
あのスワンプマンの出来事から早二週間経とうとしていた。
混乱は既に収まっていて、人は立ち直ろうとしていた。最初は勿論、あの男が残していった仕事の後処理や、親しい人が肉塊になって死んだ患者のカウンセリングとかで忙しくて、今日ようやく落ち着いたところだ。
道路を走る車の音を聞きながら目を閉じる。
喪ったものが大きすぎる事件だった。
「姐さん」と彼女を呼び慕っていた探偵の助手だったあの子も、俺の隣に立っていたあの相棒と呼べる男もいなくなってしまった。
自分達の中にいるかもしれないとは思っていたが、無意識にあいつは違うと思っていた。そのことに気付いた時には思わず乾いた笑いが出たのを覚えている。
愛していた、という言葉が頭にこびりついている。その後に、自分の隣にあの男がいる幻覚までも見てしまうのだから、自嘲してしまう。
「あーあ」
ぽつりと言葉が漏れた。
そのまま、本当にとんでもないものを遺してくれたものだ、とぼやく。
彼からの愛にそこで漸く気付く自分も、どうしようもなく愚か者だ。
人は折り合いをつけて生きていく。そうしないと生きていけないから。
それでも、未だ自分は折り合いをつけれそうになかった。今までなら、直ぐに仕方の無いことだった言って諦めれたのに。
がたんごとん、と何処かで電車が通る音が聞こえた。
あの時、もし母体を殺さなければきっと変わらぬ日常を送れたのだろうか。いや、その選択はきっとあの二人がスワンプマンだと知ってても選ばなかっただろう。もしかしたら、去っていったのは麗火ではなく、自分だったのかもしれない。
いいや、今となってはもう詮無い事だ。
強く息を吸えば、じじ、と煙草の火が強くなる。喉に焦げた煙が叩き付けられて小さく噎せた。
じわりと目に涙が浮かぶ。
この二週間、夜にタバコを吸うと毎日と言っていいほどにこうして失敗していた。
ああ。
どうしようもなく右肩が寒い。