こうして躯を重ねるようになったのはいつからだったろうか。
ぐぷ、と口の中でくぐもった水の音がして眉をしかめる。見あげれば、目尻をほのかに赤らめた俠が見下ろしている。
付き合ってくれや、だなんて言いながら自分でベルトを外す目の前のガキを見てしがらみって言うのは面倒だな、と思ったのはこれで何度目だろうか。
こうやってわざと“ケジメ”をつけさせられるのも。
「っぐ、……ぅ、」
ぐっと相手のブツを喉奥まで咥え、さっさと終わらせるために弱い部分を責め立てる。
息を詰める音が聞こえ、びゅる、と白濁が放出されたのを確認した後、数度喉を鳴らした後に口から離す。生臭いこの味になれたのは幾度目からだったか。
はあ、と息を吐いて見上げれば、達した余韻で息を切らす俠がいた。その姿にくつくつと笑う。
「鷹加里の若頭とあろうもんが、こんぐらいで息切らしていいのか?」
「…………うるせぇ……」
ぺろり、と唇についた白濁を舐め取りながら言えば、苦い顔でぽつ、と返された声は普段の取り繕ったものではなく、素のものだった。
こうして直ぐに剥げる面にまた笑う。
ジャケットとシャツを脱いで、机の上に放る。それを見て俠は嫌そうな顔をしたが気にしない。
「あんたはこういう所が杜撰だな」
「焦らされる方が良かったか?」
「んなわけあるか」
ソファの上に倒され、下着ごとスラックスをずらされる。前戯なんて何も無い。そもそも、時間に限りがあるから、そんなことに掛けている暇はない。
革張りなんだから染みになるぞと言ったこともあるが、この男は一切聞き入れやしなかったのを思い出す。
「っ、」
温められていないローションがケツに垂らされ息を呑む。
「く、……っ、ぅ」
ぐちり、とそのまま指が入り込み、固い穴を無理矢理ほぐしていく。いつだって、何かを挿れられる時は苦しい。ヤッパで刺されたり、切りつけられたりの方が遥かにマシだ。
「挿れんぞ」
ぐ、と熱いブツを宛てがわれる。さっき抜いたばかりだって言うのに、もう既に固いそれに呆れる。女でヌかずに、その上何故こんな40の男に対してそこまで興奮するのか。
ぬぷ、と入ってくる感覚に眉を顰める。
「っ、ぐ……、は、ァ、あ゙……」
「色々シってそうなのに、男色慣れはしてねえんだな」
「こんな男を、掘るヤツなんざ、お前以外知らねえよ……っ」
は、と息を切らしながら答えれば、相手はにやりと笑う。クソが、と心の中で吐き捨てた。さっきと真逆になってやがる。
「いいだろ、サカっちまった先にアンタがいたんだからよ」
「ぎ、……ッ、」
がり、と首筋に噛みつかれ、喉を逸らす。容赦なく食まれズキズキとそこの箇所が痛んだ。
「こ、ンの……猿が……ぁ、ッ!」
ぐり、ととある箇所を抉られ、身体中に痺れが走る。
「ココ、好きだろ?」
「だ、れが……っぅ、あ゙ッ」
喋る度に穿つ俠を睨みつけても、相手はただ笑うだけだった。その事がどうしようもなくイラついて、絶対声を出さないよう、唇を噛み締める。
そのせいで息も上手くできず、酸欠気味になるが声を出すよりかはマシだった。
「ハッ……」
「っ、!」
がつん、と深く穿たれ、目を見開く。
「なあおっさん、背中の華が濃ぉく色付いてんぜ」
「が、っふ、ゥ……、ゔァ、ア、ッ!」
がつがつと貪るように俠が動く度に、身体の奥底から悦楽が込み上げてくる。段々と押し上げられるような感覚に、耐えるように丸まっていた身体が反っていく。
チカチカと視界が明滅する。
「そろそろか?」
「ア゙、ぐ、……ッッ、きょ、……ぉッ!」
ばちばちと弾ける音が聞こえ始め、身体が強ばっていく。女役の嫌な所はこういう所だ。得体がしれないのに強烈なのが襲い掛かり、頭が持っていかれそうになる。
そんな時に、する、と下腹部を撫でられ、息が止まった。
「───もう少しで奥に行けそうなんだがなあ……」
「な、あア゙ッッッ───!!」
「ぐ……っ」
何を、と言う前にとどめと言わんばかりに強く前立腺を抉られ、限界まで押し上げられた身体は呆気なく達する。
どくどくと熱を流し込まれる感覚に背筋が震えた。
「ッ、テメエ……、付けなかったな……」
「獣が一々付けんのかよ」
ひきぬかれ、中に注がれたものが外に流れ出る感覚に眉をしかめる。
「普段は回る頭してるクセになんでこういう時は回さねえんだこの野郎……」
「セックスに頭なんざ使ってられっかよ」
「クソッ……、処理面倒なんだぞ……!」
「は、なら手伝ってやろうか?」
「要るかド阿呆」
スラックスも脱ぐべきだったか。そう悔やみながら下着ごと脱ぎ、もう行きなれてしまったシャワー室へと向かう。
足にどろりと伝う精液に顔を顰め、震える身体を押さえつけながら。
背中にあいつの視線を受けながら。
一通りの処理を終え、シャワーで汚れを洗い流した後出てみれば、着替えが置かれていた。といっても、着ていたものがそこに置いてあっただけだが。
それに息を吐き、着ていく。
最初はただヌいてやっていただけなのに、いつからこうして躯を重ねるようになったのか。
「…………」
はあ、と息を吐きながら、完全に乾き切っていない髪を乱雑に結ぶ。
どうにも敵意を浴びて生きていた俺にとって、敵意のない敵というものは苦手だった。こっちから仕掛けられない。
俠に何も言わずそのまま事務所を出れば、タクシーが留まっていた。
お代は既に貰っているということに溜息をかみ殺す。こういう所が。
乗り込んで住所を告げれば車は動き出す。流れていく街並みを見ながら、首の噛み跡をどうするか考えていた。