静かに扉を開ける。
時間はもう深夜と呼ばれる時間で、あと数時間で日が昇り始めてしまう。
そんな時間に自分が、この人が寝ている部屋へ訪れることは基本的にない。
そっと、足音を立てないように中へと入っていく。
眠っているであろうこの時間に忍び込んだのは、己の臆病さの表れだ。
息を殺してベッドの上に乗る。
ギシリという音が嫌に響いて心臓がはねる。じっと動かずに様子を伺う。まだ起きていないようだ。
そのまま起きなければいい、とも思う。
ほぼ吐息しかない声で相手の名前を呼んだ。
返事はない。
どくどくと己の心臓の脈動が煩い。
強請るのが出来ないのなら、自分で行動すれば良いという思考を弾き出した頭の動きが鈍い。
もし、ここで彼が起きたら。自分はどうすればいいのだろう。
そう思いながらも顔を近づける。
近い。と思った。自分で近付けたのに。
もうすぐ50だと言うのにこの人の整った顔は崩れることを知らない。感情も、だが。
唇だけが触れるキスを何度もする。
次第にそれだけじゃ足りなくなってきて、猫や犬が水を舐めるように舌を動かし始める。
それでも、中に潜り込ませるのは怖くて皮膚を擽るように舐めるだけだったが。
彼に言われずに、自分からこういう行動するのは初めてかもしれない。
一人で勝手に昂り始めている身体の熱のまま、手が動き始める。自分が着ている衣服の下に潜り込んで、そして。
ぱちり、と相手の目が開いた。夜闇に包まれていると言うのに、あの明るいブラウンが見えた気がして、息を飲む。
夜這いだなんて、大胆になったな。なんて笑う彼に、また自分から口を塞いだ。