追悼はすれど蘇生はせず


 汚れた手を洗うついでにタオルを取りに洗面所へと向かう。ただの手淫でアイツは腰を抜かしたらしい。どれだけ強い薬を盛られたのか、それだけで推測ができてしまう。

 じゃあ、と水を流しながら手を洗い、タオルを濡らしよく絞る。服は汚していないが、更衣室にあった俠のスーツは早めに回収しなくては。皺にでもなれば仕方がなかったとはいえ舌打ちをするだろう。

「(……そういえば)」


「動けるか?」

 いつも使っている部屋で息を整え終えているらしいアイツに問えば、ぶっきらぼうに「おう」と返される。粗方、格好がつかねえだとか思っているんだろう。そんなの今更であろうに。

「おら、濡れタオル持ってきた。そこまで介護はされたくねえだろ」

「アンタがされる側だろうが……」

「年齢で言うならいつかはそうなるかも知れねえがな」

 ふん、と鼻を鳴らして濡れタオルを投げれば取り逃がさずにきちんとキャッチしたのを見てまたその部屋から出ていく。

「どこ行くんだ」

「お前のスーツだよ」

 それだけで分かったのか、ぐ、と押し黙る気配がした。

 更衣室へ赴き、俠の脱ぎ捨てたスーツをハンガーに掛ける。下着は染みができていた。洗濯機行きだろう。

 まあ、それぐらいは自分でやらせるが。後程に洗濯したとして跡になることはないだろう。

 同時に自分の鞄からコンビニで買ったものを取り出す。

 下はあの部屋に浴衣があるから平気だろう。半襦袢だけという状況は回避出来るはずだ。もしそうなっていたら笑ってやろう。

 再びあの部屋へと足を進める。

「おい、俠」

「あ?」

 部屋の中に入り、名前を呼ぶ。姿は予想通り浴衣姿だ。少し小さいみたいできちんと前を締められてないが。

「ほら」

 鞄から取り出した物を投げ渡す。

「…………アンタ、さっきの今でこれを渡すか?」

「弟分に連れられてコンビニで買ったモンだ。妙なモンは入ってねえよ」

 あいつの手にあるのは有名な製菓会社の中にピーナッツが入っている大ぶりのチョコボールだ。

 未開封でフィルムが剥がれていないことを確認した俠は変な顔でこちらを見上げる。

「口直しにゃいいだろ?」