ごーん、ごーんと遠くの方から除夜の鐘が聞こえてくる。年々、クレームによって消えていってしまっているが、近所の寺は負けじと今年もついているようだ。
こたつに潜り込みながら、みかんを食べる。背中には好きな人。微かな抵抗はしていたが、お願いをしたら聞いてくれた。そういう所も好きだけど、ちょっと心配になる。どこまでお願いを聞いてくれるのか試したいけれども、最大のお願いを聞いてくれた場合が少し。
テレビでは年末番組をやっていて、右上に表示されている時計を見ればあともう少しで日が変わる事を示していた。
「今年もあとちょっとだねえ」
「そうだな」
初めは恐る恐るだった彼も今では俺の体にのしかかっている。それが嬉しい。
こうして好きな人と一緒に年を越してみたかったのだ。
色々あったが、こうしていれるのは幸福であると思う。過去の自分に言ってもきっと信じては貰えないだろう。それでもいい。過去の自分も利旺に出会って同じ思いをすればいいのだから。
年越しそばを食べて、こうしてのんびりするだけでも充分充たされるけれども、どうにも彼と出会ってから自分は欲張りになったようで。
いつ切り出そうかタイミングをさっきから見計らっている。
「年末休みだから、夜更かししても良いっていいよね」
「まあ、呼び出されたら行かなきゃなんねえけどな」
「そこは仕方ないよね~」
だって自分たちは医療関係者。精神を患ってる人が助けを呼ぶなら行かなきゃならない人間だから。
そう考えると大人しくするのが最善手なのだろうけれども、それとこれとは別なのだ。あと俺、体力あるから明日には回復するし。そこは自信あるし。
「あ」
テレビからカウントダウンの声が聞こえる。
10,9,8...
0,あけましておめでとうございます!という声と同時に顔を上げてキスをする。離せばビックリしている顔で、思わず笑ってしまう。
「け、」
「あのね、りっちゃん。したいな」
顔を上げたまま言えば、ぴしりと固まった。すごい顔だ。
「後ね……えっと、ちょっとだけ、準備してきた……」
流石にこれは少し恥ずかしくて俯いてしまう。自分で準備するのは大変だった。
所謂据え膳、っていう状態にしてきた、から後は食べてもらうだけなのだが。果たして。
「(……除夜の鐘も大変だよな……)」
未だに聞こえてくる鐘の音を他所に、目の前の利旺の顔を見た。
どんな顔をしていたのかは。