「ヨアンについて?」
そうだ、と頷けば、彼は困ったような笑みを浮かべた。
「俺、アイツについてそんな知らないよ?」
それでもいいから、なにか話してほしい、と言えば頬を掻いて遠い過去を思い出すように彼は視線を逸らした。
「……そうだな、俺は……嫌いだったかな」
嫌い?
「そう、嫌い。初めはただ気に食わなかったんだけど」
それは、人間師であり、貴方達を騙していたから?
「いや、それは別に。まあ俺達を出し抜いたのは今でも気に食わないけどね」
なら、何故?
「……なんでだろうねえ。俺としては、あいつが警部補だったとしても、人間師だったとしてもどうでもいいんだ」
どうでもいい?
「それらをひっくるめて、ヨアンだったんだと思うから。どれが偽りかなんて、結局は他人の決め付けだろう?」
果たしてそうなのだろうか。
「俺はそう思ってるよ。だから、俺は人間師であるヨアンのことも、騒がしい犬のような後輩のヨアンの事も否定しない。そのどちらもヨアンだったと思ってるから」
……難しいことを。
「そうかな」
そう、彼は薄く笑う。
それらを含めて、あなたは彼のことが嫌いだと?
「そういうことになるね」
やはり不可解だ。
「何故?」
そう問われ、言葉に詰まる。
まさかそう返されるとは思ってもみなかったからだ。
「俺としては、不可解であることが不可解だな」
晴天のような青の瞳が自分を貫く。
その奥に、深い淀みのような青を見たような気がした。
「……もういいかな。ヨアンのことを知りたいなら俺よりもヒューイ・ロッケンフィールドという男に聞いた方がいいと思うよ。俺よりも彼に慕われていた期間が長いから」
そう言って、彼はその場から立ち去った。
私はただ、何も言えずにそこに立っているだけだった。