誰も望まぬトラジティ


「……!」

 世界が変わった。いや、変えられた。

 今まで見ていた視覚のない世界ではなく、今はサングラスであろうものがあるという事が認識できていた。

 微かに震える指でサングラスを外せば、初めてものの形と色を知った。

「……バカ」

 すぐにこれが弟の目であることが分かった。根拠なんてないけれど、確信があった。

 こんな確信なんていらないというのに。

 すぐに鏡のある場所に行き、弟の目を見る。

 確か、彼は青い目をしていると両親が言っていた。

 自分達の茶色の目とは違う、空や海のような青い目なのだと。


 鏡の中の私の眼孔には両親と違う青い目があった。


「あなたがいてくれるだけで、本当は良かったのよ」

 こんなことを望んでいた訳ではなかった。

 きっと弟はもう帰ってこない。あの声を聞くことはもう叶わないのだろうか?

「……いいえ」

 帰ってこないというのなら、帰ってくるまで待てばいい。

 この目を与えられたなら、彼が帰ってくるまでに預かっておこう。

 彼からの言葉は何も無いのだから、どう解釈しようが己の勝手だ。


「こんな悲劇みたいな事、お断りだもの」


帰ってきたら、まずは説教をしなければならないだろう。